2009/08/07(金)日本の安心はなぜ消えたのか?
2009/08/07 09:02
日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点/山岸 俊男
内容としては、賛同する点がとても多いです。
本書の内容を簡単にまとめると、
日本人は集団主義的、欧米人は個人主義的と言われているが、それは日本人の本性ではなく、単に閉鎖的なムラ社会だから協力的でないと村八分にされて生きていけなくなるから、というむしろ利己的な理由による、というもの。
で、閉鎖社会では知らない人は全員疑っとけば問題ないから、人を見極める能力が育たない。逆に欧米のようなオープン社会ではいろんな見ず知らずの人を受け入れていかないと生きていけないから、人を見る目が育つ。どっちがいいとかではないけど、今のオープンな社会では欧米人のような「人を見極めて信用する力」が強いよ。ということ。
この本では具体的には書かれていなかった点だけど、この日本のムラ社会とか欧米人のオープン性とかってのは結局地理的要因によるものでしょう。要は島国な上に山が多いのでどうしても物理的に閉鎖的な空間で暮らさなければならなかった、故にムラ社会型の相互監視による安心社会ができたわけです。一方欧米はでっかい大陸ですから移動は自由。見ず知らずの人間に出会う機会も多いし、その分チャンスとリスクも多いから他人を見極める能力が育ってきたわけです。
シリコンバレー発の楽観的ベンチャー気質やサブプライムローンにみる適当っぷりもこの地理的要因によるものでしょう。広い大地の上では失敗したらまたどこか別の地でやり直せばいいわけです。逆に狭い国土の日本人は失敗したらムラの中で一生バカにされ続けるリスクがあるから何をやるにも慎重だし、その慎重さがもの作りの完璧さという長所にもつながっているんでしょう。その完璧性はサービス業だと24時間営業とか正月営業につながって過剰労働の要因になってる気もしますが。
この本でもたびたび、説教や「心の教育」などでは人の心は変えられない、環境こそが重要。と書かれていますが、まったく同意です。ついつい「心」がすべての根っこにあって、そこから人間の行動が生まれて、社会を作って・・・と考えがちですが、実際には上で述べたように結局「心」というものはその人本人が自由にコントロールできるものではなく、生まれた大地の地理や気候などの様々な関数が絡み合って算出された「結果」でしかないのではないかと思います。もちろん、その結果がさらに人を動かし・・・とサイクルしてはいるので、結果であり原因でもあるのですが、心というものをすべての元凶にして考えるのは無理があるわけで、その結果を算出した関数にも原因を求めるべきでしょう。
この辺の自然環境と文化や心のつながりはいろいろ思うところがあるのですが、それはまた別途書くとして・・・
この本で唯一気になったのは文章ですね。無理に大衆受けを狙ったような、妙に俗っぽい言い回しが目に付きました。と思ったらあとがきによると、編集との話し合いで、理論的にするだけでなく、わかりやすくするためにあえていつもと違う作り方をした、とのこと。
うーん、親しみやすさを狙ったんですかね?・・・まあ、広く売るためには正しい選択なのかもしれないけれど、特に第一章はちょっと下俗な雰囲気になっているのがもったいないです。
主張している内容についてはとってもいい本だと思います。